九九夜話

日々のこと。

日々のこと。|九九夜話
着物スタイリスト秋月洋子の活動記録。オリジナルデザインによる帯留ブランド『九九』‐銀細工職人、山口緩奈さんとのコラボレーション‐の紹介と販売。季節に合わせたスタイリングや趣味の書(古代文字:龜甲会)の話もたまに。
『あ・うん』

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1989年 降旗康男監督/向田邦子原作




たおやか、という言葉そのもののような、富司純子さん演じるたみの着物姿は
とりあえず、それだけでも観る価値アリ(もちろん、内容も十分面白いけれど)。


ほっそりとした身体をそぉっとくるみこむような、その着こなしは
着付けという言い方が、少々堅苦しく思えてしまうほど。
布と布の間、布と肌との間に柔らかな空気の層があり、その内側で
ふわりと身体がたゆたっている、そんな印象だ。

ゆったりと緩やかで、でも決して“崩れ”はしない。
あくまでも上品で、瑞々しく清潔な色気を漂わせながら
どこか初々しさも残しつつ…なんとも魅力的な大人の女性。
(たみのチャーミングな仕草に、そうそう、そこ、かゆいときあるよね、と
 思わず頷いてしまったり。笑)





     女の和服は鯱鉾張りさえしなければそれでいい。雪だと思って着ればいい。
     講釈も文句もなんにもいらない、ふわりと着ればいい

     和服をきるのには、上前下前をかき合わせて着ます。
     あれは自分を大事にしていとおしむ形だと思います。

                        −「幸田文 きもの帖」(平凡社)


     ………まさに。





庭先で伸子張りをする、姉さん被りのたみ。
後ろ姿の、背中(お太鼓の上)のわずかな皺。
袂にこぼれる、ひとすじの紅。


舞台は昭和12年。
着物が日常着だった頃の、澄ましかえっていない自然な着物姿が息づいていました。





             ちなみに、私のイチ押しは。

             最後の方にちょこっと登場する、故三木のり平さん。
             さすが!  いい味出してます(笑)。




    






| 本棚 | 01:53 | - | -
『おとうと』
JUGEMテーマ:映画



1960年 市川昆監督/幸田文原作
(最近公開の同名作ではなくて申し訳ないのですが)



幸田文さんの自伝的小説を原作とした作品。

原作に、かなり忠実に映像化されてはいますが、さすがに1時間半という短さでは
この世界感を詳細な背景まで理解させるには難しいかと。。。

なので、小説を読んでから観るのがオススメです。




継母との気持ちの行き違いや、弟碧郎の繊細で壊れやすい心、
姉げんの(弟を思いながらも)ただ労働力としてのみ認識されていることに
「私はいったい何?」というやるせない気持ち……
限りない愛情を持ちながら、それを示すのが下手な父の姿も、また哀しい。

みぞおちのあたりが、きゅうっと引き絞られるような切なさが行間にあふれていて。
原作を読んでから観ると、岸恵子さん演じるげんの表情の背景にある
感情も、より深く伝わってきます。





時は大正時代、女学生であるげんは銘仙に袴。
弟碧郎は、学生服、あるいは白絣に袴、学生帽。

この頃の、一般的な家庭における日常着がたくさん見られます。
決して裕福ではない、ごくごく一般的な水準(経済的に)の家庭環境。
これは、母の友人として訪ねてくる夫人が、いわゆる「いいうちの奥様」として
描かれていることからもわかります。明らかに身なりの華やかさが違って、対照的。
(若き日の岸田今日子さんが、これまたいい味出してるんですねー。笑)



着物は、薄茶と弁柄色の地に墨色の格子の銘仙。
ねずみ色の兵児帯を締め、1尺7寸くらいありそうな長い袂に
がしがしとたすきをかけて家事をするげん。
(この勢いが、なんともげん=幸田文さんっぽくて…印象的)


     袂の長さはともかく、この雰囲気は現代でも十分素敵。
     役としての設定は19〜20歳くらいなのですが、演じている岸さんは20代後半。
     なので、雰囲気としては結構大人っぽい。
     20代30代でも、普段着に兵児帯、のお手本としてかなり参考になると思います。



外出の際には、帯を更紗っぽい半幅帯に替え、大きなやの字(お太鼓風)に。


     中幅や半幅の帯を、この大きなやの字に締めた後ろ姿がよく登場しますが
     この結び方、現代でもウールや木綿の着物にとてもよく似合うと思います。
     帯揚げと帯締めをして、適度なきちんと感もあり、かなり大きめなので
     ヒップラインもしっかりカバーしてくれる。

     ただ…このバランスは、この袂の長さがあってこそ、という感じもしますね。
     現代の袖丈(1尺3寸)なら、もう少し小ぶりの方がバランス良いかもしれません。



また、こげ茶色に撫子や菊などが織りだされた銘仙(大島?)に
青磁色に南天っぽい葉と実の柄の羽織を合せた外出のスタイル。

うちに帰れば、薄い小豆色の麻の葉柄の上っ張りを着て。
着物+羽織の配色のお手本といったところ。



その他にも、当時のデパートの雰囲気や、上布らしき白の着物にカンカン帽、といった
男性の姿(当時はおしゃれをして出かける場所だっただろうから)。
炭を入れて使うアイロンで、霧を吹きながらアイロンがけをするシーン。
弟に見せるために日本髪を結うシーン…などなど、見どころがたくさんあります。



     ついでに言うと、看護婦さんのスタイルがまた何ともかわいいのです。
     江波杏子さんの、小悪魔風な美貌と相まって…これまた必見。

     あと…ガチョウも。ある意味、いちばんの見どころかも(笑)。




              


| 本棚 | 23:55 | - | -
『め宝』
岡本可亭編/明治24年発行


め宝


以前、骨董市で見つけた本。
「め」???と思ったら……「女宝」でした。


要するに、女としての心得をまとめた内容。

育児に始まり、裁縫、茶の湯、生け花、音曲、
料理、洗濯、化粧の仕方に至るまで、ことこまかに指南。



和裁においては、女物の着物だけでなく、子どものものから
男物、印半纏や宗十郎頭巾に至るまですべて網羅され 
おまけに、多種にわたる毛糸の編み方まで。


面白いなと思うのは、編者が書家ゆえか
「女用文」という項目にかなり頁が費やされていること。

贈答の際や冠婚葬祭、物の貸し借りなど
日々の雑事における手紙の書き方。
相手を敬って呼ぶ呼び方など、敬語の用い方や
よくクイズ番組などで取り上げられる、数の数え方なども
詳しく載っていて、雑学マニアにはたまらないかも。


例えば


帯は一筋(すじ)。衣服は一襲(かさね)。
袴は一下(くだり)。絹糸は一丸(まる)。

なんだか響きが柔らかい。

鰹節って、一連(れん)と数えるんだ。へぇぇ。。。




め宝中身

洗濯法のページ↑


墨が付いた時は、橙の汁で洗ってから石鹸で丁寧に、とか。
珊瑚珠の髪飾りの油垢は、薄い味噌汁で洗う、とか。
(ほんとかなぁ???)

その他にも、麦藁帽子や羅紗の洗濯法、染め替えの方法、
そして料理に至っては、漬物や野菜の貯蓄法はまだしも
ビールの製法まで!(どんな味がしたんだろ?)





しかし。
明治の女性たち、こんなこと、みーんなできたんでしょうか?

もし、これら全部できなきゃいけないとしたら
私はもちろん、たぶん現代女性のかなりの割合が
「宝」どころか「女失格」かもしれません……(笑)。


この少し後に生まれた幸田文さんなどは、エッセイを読むと
ほぼこれに近いことを露伴翁から厳しく仕込まれていたようですし
今の自分たちが、いかに「できること」が少ないかを
思い知らされます。

でもきっと、裁縫が苦手、なんて女性もいたはず。
掃除は得意だけど、料理がちょっと……とか(笑)。
皆が皆、そうそうできることではないからこそ
それらを完璧にこなす人は、それこそ「宝」と
呼ばれるべき存在だったことでしょうね。





     ちなみに、この編者である岡本可亭は
     あの天才アーティスト岡本太郎の祖父なのだそう。
 

     と、いうことは。


     あの(!)岡本かの子の
     義理の父になるということで………
 
     だからでしょうか。
     これができたら「女(の)宝」というタイトルに
     妙なリアリティを感じるのは(笑)。。。



  


| 本棚 | 21:31 | - | -
堪能
『流れる』
幸田文原作/成瀬巳喜男監督



体重を感じさせない、すっとした立ち姿。
しなやかな手元。
きゅっと上がったお太鼓に、風情漂う後ろ姿……

芸者置屋の女主人、つた奴を演じる
山田五十鈴さんの美しさに惚れぼれ。









ちょうど、季節は夏。


木目、流水、変り亀甲、扇面……


つた奴のまとう浴衣は、どれも大胆で個性的。
花柄全盛の現代ならば、男っぽいだの、華がないだのと
言われてしまいそうな柄ばかりなのに
匂い立つような、その艶やかさに息を吞む。


これだけの強い柄で、抑え込んでなおあふれる女らしさ。





………すごいなぁ。。。さすが。。。

ボキャブラリィの貧困さに、我ながら情けないけれど
そうとしか言いようがない(笑)。





実は私にとって、浴衣は、結構着こなしが難しいアイテム。
中でも、こういった“浴衣らしい浴衣”は本当に難しい。


その理由は……ごまかしが効かないから。


着付けのテクニック的な部分や、着るものが少ないだけに
体のラインが出やすい、といった意味もあるけれど、それだけではなく
人としての中身というか、生命力、あるいは、芯の強さというか。


   
     そういった、内面的なものが
     もろに出てしまう気がするのです。
     ちょっと大げさかもしれないけれど………
 


薄っぺらな自分が、あからさまに出てしまう…そんな気がして
藍白大柄浴衣のきっぱりシンプルな潔さに、今はどうにも
太刀打ちできそうにない、ヤワな私(笑)。
(もっと年を重ねれば、いつか、着られるように……
 なる、かなぁ??? うーん………)







この作品は、山田五十鈴さんはじめ、主人公の田中絹代さん、
杉村春子さん、粟島すみ子さん、高峰秀子さんなどなど
贅沢際まりないキャスティング。

登場人物それぞれの、内面や立場を映し出した着こなし
(柄、帯の結び方、衿の合わせ方など)や
浴衣だけでなく、夏の着物や芸者たちの出の衣裳など
見どころたっぷり。

また、当時の常として、浴衣はあくまでも部屋着なので
ささっと着替えて出かけるシーンも多く
着付けの際の、手さばきの美しさも必見です。



モノクロであるがゆえに、より鮮烈な印象を残す
“浴衣らしい浴衣“の美しさが堪能できる作品。

まさに眼福……お勧めです。







原作はこちら↓ 表紙も素敵です。







| 本棚 | 19:34 | - | -
装いは語る
時代小説において、装いは、登場人物の
身の上や心情を物語る重要なファクターとなる。

髪型や化粧、着物など、その装いによって
その人物の立場や背景がほぼ見て取れた時代の物語だから
当然と言えば当然なのだけど。





久し振りに『芝桜』(有吉佐和子著)を読み返す。

まったく正反対の性格を持つ二人の芸者
正子と蔦代の人生を描いた物語。











畳んだ着物が描かれた、文庫本のカバーからも
うかがえるように、殊に、花柳界を主な舞台とする
本作において、装いはとても重要な意味を持つ。
登場人物の性格や立場を、それぞれの装いに対する
思いや扱い方を細やかに描写することで
表現しているといってもよいほど。

また、時代は大正〜戦後………女性の装いに
最も大きな変化があった時代だから、なおさらだ。



芸者時代、役者である恋人の紋や干支の模様を散らした
小紋に帯、襦袢、そしてお正月には、名前にちなんだ裾模様を
染めさせて……と贅を尽くして装いに凝る、主人公の正子。
(関係が終わった後、その始末に困り果てますが笑)



芸者をやめ、堅気の商売を始めた正子の、その立場による装いの変化。

戦前から戦後にかけての、時代による装いの変化。



着物にまつわる、数々の印象的なエピソードを織り交ぜながら
正子と蔦代のまったく正反対の(…なのに、複雑に絡み合った)
生き方が描かれていく。







しかし、なんというか……
この著者の描く“女”というのは
ただもう、見事、としか言いようがない。
他の作品にも、この手の人物が登場するけれど
読みながら、真剣に腹が立ってくるほど(笑)。

なのについ、一気に読み進んでしまうのだから
正直、読んだあと、どっと疲れが。。。。



正子とともに、ものすごく重い何かを、ようやく
振り棄てたような………開放感に似た思いも感じつつ。




| 本棚 | 01:25 | - | -
『阿修羅のごとく』
向田邦子脚本/森田芳光監督



興味深いのは、母(八千草薫)と長女(大竹しのぶ)の
対照的な着こなし。
(この母を見て育って、何故こういうセンスに???と
 ちょっとツッコミたくなるけれど笑)




ラスト近く、母が好んで着ていた着物を、そのまま
三女の滝子(深津絵里)が着て立ち働くシーンがある。

まったく同じ着物、同じ帯で、父(仲代達矢)の目に
在りし日の母の姿をだぶらせる印象的なシーン。



でも、ちゃんと滝子の着こなしになっているのが
なんかいいな、と思った。



しゃっきりした硬さのある織の着物(大島紬?)を
母はあくまでも柔らかく、娘は、その若さゆえか
その生地の持つ硬さが際立った初々しい着こなし。

長女との対比とは、また違う意味での対照的な着物姿。



でも……若かりし母は、きっと、こんな風に着ただろう。
そんな、自然な着こなしが印象に残った。










これからとりかかる仕事の資料に、着物姿をちらりと確認だけ……

なんて思って、観始めたのが運のつき。
(ま、それが夜中の3時ってとこからして間違ってるのですが)

ついつい最後まで観てしまい、気がついたら
すっかり外は明るくなっておりました。。。


 
| 本棚 | 03:50 | - | -
『純情ババァになりました。』 加賀まりこ 講談社文庫
生き生きとした、あの歯切れのよい口調を直に聞いているような
軽やかな文で綴られた、女優 加賀まりこさんのエッセイ。



変に謙遜するでもなく、格好つけるでもなく
自分自身を、素直にまっすぐに見つめている。
その気取りのなさが、潔くて心地よい。

鏡に映った自分の姿の、その後ろまでも見通すような
表紙の写真の、静かに強い目がとても象徴的で。




タイトルの「ババァ」をはじめ、ちょっと蓮っ葉な言葉を
わざと使ったりもされているのに、ちっとも安っぽくならないのは
全体を通して、著者の想いや感覚が
ニュアンスを含んだ美しい言葉で綴られているからだと思う。
本質的な素の部分の品の良さというか、高潔さというか…
矜持(あるいは覚悟)のようなものが、醸し出されていて。

沢村貞子さんも、そう。江戸っ子だからかな。。。



印象的なエピソードがたくさんちりばめられていて
幾度となく、繰り返し読んでいる。

きものにまつわるものも多く、例えば、現在のパートナーとの
まだ恋人になる前の食事、気合いを入れたおしゃれが
(大雪にも関わらず)きもの…というくだりで
ちょっとうれしくなったり。


かなり以前に観た、著者20代のころに主演した作品
『月曜日のユカ』を思い出した。

とにかく可愛かった!
コケティッシュで、この表紙の写真のような強い目をして。
久し振りに、また観たくなりました。

キネマ旬報助演女優賞を受賞した『泥の河』も観たいのだけど
DVDにはなってなさそう…どこかでリヴァイバルしないかな。


| 本棚 | 19:40 | - | -